中国の空母保有計画をどう読むか



中国海軍は平成32年までに空母機動部隊を創設すると豪語した。現在、中古空母三隻の改修に着手している。保守はこれを最大の脅威と見なしたが一方で大した脅威とはならないとの声もある。
技術的な分析は各メディアや軍事雑誌でもすでに行われており、技術畑でもない私が言及する余地はさして残されていない。
だが歴史について論じている者の端くれとしてこの中国海軍の空母保有の意味を中国近現代史から読み解いてみたい。

1、幽霊船ワリヤーグと中国の暗躍

1998年、マカオの民間企業、創律集団旅遊娯楽公司ウクライナから空母ワリヤーグを購入した。同社の社長、徐増平が購入したとき、この艦は未完成のまま湾に係留され錆だらけの幽霊船のような有り様であった。
ワリヤーグはソ連海軍の空母としてウクライナでの建造が勧められていたが、完成前にソ連崩壊に直面、未完成のまま黒海に係留されていた。ウクライナが独立するとロシア・ウクライナ間で所有権争いとなり結果的にウクライナ海軍がその手に収めたが、結局完成には至らなかった。ウクライナはこの艦を持て余しスクラップとして二千万ドルで売却することとした。その話に飛びついたのが創律集団旅遊娯楽公司である。
この契約は中国本国で海上カジノとして使用するという触れ込みであったが、当初から中共政府の影が見え隠れするものだった。そもそも中国には純然たる民間企業など存在せず、政府の統制下のもとにある。徐増平社長からして中国軍の退役軍人である。
中国への海上輸送の際、トルコ政府がダーダネス海峡通過に難色を示した。ワリヤーグは自力航行できず危険であり、そもそも曲がりなりにも空母であるワリヤーグの領海通過に拒否感を示した。
だがすぐに中共政府が交渉に乗り出し、ダーダネス海峡通過を容認させる。
中国の空母保有計画の第一歩であることは明白であった。中国はワリヤーグの他にもオーストラリアから空母メルボルン、ロシアからキエフとミンスクを購入した。これも展示用という触れ込みであり、空母保有を企図したものではないと宣言した。
だがワリヤーグのカジノ計画は結局実行されず、メルボルンとキエフ・ミンスクの一般公開も早々に中止され、ほどなくして中共政府はこれらの艦を近代化改修した空母保有計画を発表することなる。中共政府の姿勢は常にこのようなものであり、自らの宣言や条約を守ることなど絶対にないのである。

ワリヤーグ2

2、波紋を呼んだ石破発言

今年8月の21日から22日にかけて北京において日本の要人を招聘して第七回「北京−東京フォーラム」が八月二十一、開催された。
この席上、石破茂政調会長は次のように発言した。
「空母を有効に運用するには、その一隻につき三隻の軍艦が必要になり、その護衛のためにさらに多くの艦艇が必要となるこうした編隊を配備することは難しく、実際の運用経験の蓄積も求められる」と述べた上で、「私はこれまで一貫して、装備は嘘をつかないと主張してきた。どの国が何を考えているかは、その武器を見ればわかるのだ。私は中国空母の発展が日本の安全利益の脅威になるとは思わない。』
また同席した山口防衛大学教授も「一つの国の海軍が空母を持つのは正常なことであり、わずか空母のためだけに騒がない方がいい」と発言した。
この石破発言は保守論壇から軽率な発言として非難されることとなる。
だが純軍事的にみればこの発言は一面の正しさもある。

3、空母機動部隊編成の難しさ

中国は現段階ではまだ船体の建造に着手した段階である。ワリヤーグは建造をほぼ終えたが、この空母は練習艦として使用しワリヤーグが即戦力化するわけではない。
そもそもヘリコプター空母ではなく大型の正規空母を保有している国は僅かで実際に空母機動部隊として運用に成功している国はアメリカ、ロシア、フランスなど大国のなかでも限られている。
空母保有はそれほど困難を極める。まず空母は半年はドッグに入るか訓練に費やしており最低でも三隻は保有しないと常時一隻を展開させることはできない。
また空母の飛行甲板は空母艦載機として設計された機体であっても離着陸には極めて狭く蒸気式カタパルトなしでは離陸しても滑走距離が足りず海に転落する。
カタパルトとは蒸気でパチンコのように戦闘機を飛ばす装置だが現在カタパルトを開発できるのはアメリカだけである。フランスは開発当初ドゴール主義というアメリカやNATOに依存しない単独防衛を進めており、自力開発を目指したがやはりカタパルトの自製に失敗、最終的にはアメリカから購入している。
中国が購入した旧ソ連空母もこの発艦システムの問題に突き当たる。カタパルトは軍事機密であり仮想敵ソ連は当然、この技術を手に入れることができず、スキージャンプ台式の発艦方式を編み出すこととなる。旧ソ連の空母はいずれも飛行甲板がスキージャンプ台のようにせり上がっている。つまり短い距離での発艦を断念し、距離を少しでも稼ぐことで何とか発艦を可能にしたのである。
だがこのスキージャンプ台方式は様々な問題点を含んでいる。まずやはりいくら距離を延伸してもカタパルト無しでの離陸は難しく機体重量軽減のため空対空ミサイルや爆弾の搭載が制限される。
またスキージャンプ台そのものが場所をとるため必然的に搭載機数が制限された。このようにソ連空母は仮に同数の米海軍の空母機動部隊と艦隊決戦を挑んでも圧倒的に劣勢であり、ソ連海軍は巡航ミサイルの開発、その一斉発射戦法に傾注することなる。
だがアメリカが空母機動部隊の防空のために同時多発のミサイル発射の処理、迎撃するイージスシステムを搭載したイージス艦の開発に成功するとその優位性も失われた。ソ連海軍は結局地中海や太平洋に出ることができず、冷戦を終えた。
いかに中国が海軍力増強に勤しんでいるといって米海軍の正規空母は11隻を誇っており(ただ実際には稼働できない艦もあるともいわれている)、圧倒的である。彼らは第2列島線、すなわちグアム以西まで進出すると威勢がいいが旧ソ連空母を数隻持ったと ところで土台無理である。
次の問題は肝心のパイロットと機体の確保である。空母搭乗員は地上基地のパイロットと戦闘機をそのまま転用すればよいというものではない。
前述したように空母の飛行甲板は狭く、また潮風があるので平時は艦内に格納しておかねばならない。このため翼の折りたたみができる、空母艦載機として専用に開発された機体が必要となるが中国は保有していない。現在中国は旧ソ連製Su(スホーイ)−27フランカーの艦載機型であるSu−33をロシアから購入を計画しているがロシアは近年の中国の軍拡を脅威として捉えており、購入計画は事実上中断している。
また離陸はかろうじてできたとしても着艦は海に浮かぶ小島への着陸であり、極めて危険である。
そもそも空母の飛行甲板では距離が足りず現在のアメリカ海軍でも着艦は寸前にワイヤーを張り、着陸寸前の機体を引っ掛けて止めるという古典的な方法が用いられている。飛行甲板は爆弾や離着陸した戦闘機がずらりと並んでおり、無論失敗すれば大事故につながる。
米海軍も幾度となく大惨事を経験している、中国は近年の新幹線脱線事案に見られるような安全管理の杜撰な国であり、仮に搭乗員を養成し艦載機を調達してもしばらくは大事故を繰り返すものと思われる。

3、それでも空母は脅威となる〜南シナ海の聖域化〜

石破政調会長は政界の中でも名うての軍事通であり、北京での軍事発言は兵器単体でみれば誤りとはいえない。軍事アナリストは兵器のスペックのみで判断する傾向が強く、朝日新聞お抱えの田岡俊二氏を始め兵器の性能に詳しいもので中国の空母を脅威と見做さない者は多い。
だが彼らに共通する問題は兵器のスペックのみに目がいき中共という国の本質が見えていない点にある。
中共は建国の翌年にチベット侵略を開始し120万人を虐殺した。またウイグルを核実験場とし20万人を殺害し、ヴェトナム、ビルマ、フィリピン、インド、ロシアと日本を除く全ての周辺国に侵略戦争を仕掛けている。
近年海軍力に自信を深めた中国はフィリピン、インドネシア、ヴェトナム周辺海域で度々、武力衝突を引き起こし尖閣諸島においても漁船衝突事件が発生している。とても防衛目的で空母を持つとは考えられない。
空母保有でまず深刻な影響を被るのはASEAN諸国である。
ASEAN諸国は軍事力、わけても海軍が脆弱で空母はタイ海軍のヘリ空母『チャクリ・ナルエベト』一隻のみである。
ASEANは海軍は中国を想定した合同軍事演習を重ねているが軍事バランスは圧倒的で南シナ海からは完全に駆逐されているのが実情なのだ。
中国の空母保有でこの軍事バランスの格差を決定的なものとするだろう。
それでは日本への影響はどうだろうか。東南アジアはともかく日本にはさしたる影響はないという意見は根強い。
その最大の根拠はやはり横須賀のアメリカ第7艦隊の存在である。
第7艦隊は圧倒的であり、また海上自衛隊には優秀な潜水艦隊が存在している。 中国海軍はモスキット対艦ミサイル装備のソビレメンヌイ級駆逐艦の増強や空母建造など全般的に単純な攻撃力増加に重点を置き防御力が極めて脆弱になっている。
対潜能力はかつてのソ連海軍以下であり正面から挑めば第7艦隊はおろか海自の潜水艦隊にも相当数
撃沈を許すだろう。
海上自衛隊は原子力潜水艦を保有しておらず素人目には頼りなく見えるが、通常動力潜水艦は原潜に比べで静粛性に優れるという利点がある。加えて海自のサブマリナーは極めて優秀であり、対潜能力に劣る中国艦隊は彼らの好餌となるだろう。
一見すると中国海軍の空母は日本にとり差し迫った脅威ではないように見える。 だが中国海軍自身この程度のことは認識しており彼らはその 上で大平洋に遊弋区せずとも日米を威嚇できる手段を考えているのである。
川村純彦元海将がチャンネル桜に置いてその具体的運用法について指摘を行っている。
前述したように中国の空母は陸上からの航空機のエアカバーなしでの独立した作戦行動は不可能である。したがってすでに確保した南シナ海からは出さず陸上航空機と艦載機によって南シナ海に米海軍を接近を許さないエリアを構築する。
その海中に戦略ミサイル原潜を潜行させ、原潜を守るための空母として活用するというのである。
変則的な運用法であるがこれにより南シナ海に航空機と空母に守られた聖域が誕生し、原潜は安全な海域から核で威嚇できる。
元来中国の原潜は極めて音がうるさく2004年の領海侵犯事件の際も米海軍、豪州海軍、海自によって出航から帰投まで終始追尾されるという有り様であった。だが空母の南シナ海展開により聖域を確保すれば中国の核戦力は飛躍的に向上する。
これにより北京の共産党首脳部は自信を深め尖閣問題をはじめ日本にさらなる無理難題を突きつけてくることは確実である。このように中国の空母保有は兵器単体としては脆弱に見えるが、やはり戦略的にみれば日本のみならずアジア全域に重大な影響を及ぼす問題と言わざるを得ない。
石破氏本人はリップサービスのつもりかもしれないが中国はこれの発言を日本は無警戒であるとみなしかねない。やはり元防衛相経験者として軽率との批判は免れないのではないか。
4、歴史は繰り返す〜定遠・鎮遠とワリヤーグ〜

以上は現在の軍事的リアリズムから中国空母について捉えたものだが、こうした分析はすでに多くの軍事アナリストや軍人から発表されている。
したがって私は最後に中国近現代史の観点からこの中国の空母保有計画を読み解いてみたい。
中国の空母保有の危険性は空母性能ではなく、彼らがこのような大型艦艇を手にすることそのものにある。
中国は歴史的に新兵器を手にしたり兵力を増強すると外国に鎧袖一触で勝てると思い込み戦争を仕掛けてきた国だからだ。
日清戦争は左翼のいうような日本の侵略戦争ではなく突如清国軍が朝鮮半島の日本軍に先制攻撃を加えたことから始まった。
清はなぜ日本に勝てると思い込んだのか、その一因はドイツから戦艦『定遠』、『鎮遠』を購入したことにあった。清はいわゆる洋務運動により外国兵器の購入を図り、ガトリング砲やドイツのモーゼル小銃、クルップ砲を清国軍に装備させた。そして戦艦『定遠』『鎮遠』を手にしたとき彼らは揺るぎない自信を深めた。だが清国は基礎的な軍事学については全く理解していなかった。そもそも定遠、鎮遠の艦長・航海士、砲雷長は全員外国人傭兵である。だが彼らは『中体西用』すなわち中国は優れており、外国からは兵器というハードウェアのみを輸入すれば勝てるという錯覚に陥っていた。その慢心は極致に達し長崎に寄港した『定遠』『鎮遠』の水兵は日本人に乱暴狼藉を働いた。
だが日本は明治維新により議会制民主主義に基づく国民国家の創設という基礎から着手する。
日清、日露の英雄東郷平八郎元帥は戦闘技術ではなくイギリスに留学し英語を学び国際法の勉強に励んだ。
ソフトとハードの理解なくしては兵器を購入しても生かすことは出来ないのである。
日本は日清戦争前わずか3ヶ月で20万の陸軍を朝鮮半島に輸送する国力を蓄えていた。かたや清国軍は北京全面に五千人程度しか配置出来なかった。単に外国製火器を装備しただけでは鉄道や軍港を整備した国との輸送力は歴然であった。
だが清はこの客観的判断ができず、人口と外国製装備を頼みに日本に戦争を挑むこととなる。
結果は惨憺たる有り様であった清国海軍は黄海海戦で撃破され、清国陸軍は使い方がわからずモーゼル小銃やクルップ砲を放棄して壊走する。
清は外国製の目新しい武器を手にしてすでに日本に勝ったかのような優越感を抱き、見込み違いの戦争を引き起こしたのである。

次なる清国の後継政権である中華民国も同様であった。
蒋介石はドイツとのハプロ条約締結によって国民党軍のドイツ式武装化に成功する。総兵力七十五万の多くは雑軍と呼ばれる単なる軍閥軍に過ぎなかったが中央軍の87師、88師は日本軍よりも装備が優良で自動車化師団として編成されていた。清国と同じく一点豪華主義の編成であったがこれに自信を抱いた蒋介石は上海での決戦を挑む。これが世に言う日華事変の勃発であった。 オバマ政権はビンラディン殺害後、アフガニスタンからの段階的的撤退と向こう10年間の大規模な軍備削減計画を発表した。
軍事作戦が一定の目標に達すれば平和の配当としての軍縮はある程度やむを得ないがこれをして中国に誤ったシグナルを送る可能性がある。
アメリカが軍縮に向かう以上、自衛隊の増強しかないが防衛費は防衛省・自衛隊の必死の訴えにもかかわらずここ十年以上減額である。
かたや中国の国防費はここ十年以上、二桁以上増額の大軍拡を実行中である。
加えて問題なのが現在の民主党政権である、鳩山は『東シナ海を友愛の海にしよう』と唱え東アジア共同体構想を提案した。続く管政権は尖閣沖の漁船衝突事件の船長を中国の圧力に屈しチャーター機で送り返すという愚行を行った。また普天間問題では鳩山、管、野田と続いて日米同盟に亀裂を生じさせている。民主党政権は中共に無警戒であるだけでなく、誤ったシグナルを送り続けているのである。
私は歴史を語るものの端くれであるが、やればやるほど歴史は繰り返すということがわかってくる。
抑止力とは軍事バランスの均衡により戦争を起こさせないことが第一義となる。中国が空母保有問題は実際に勝てるかといった実戦力が重要なのではなく彼らがこれで勝てるという勘違いを起こし戦争を開始する可能性があることが問題なのである。
中国はそのような冒険を試みるわけがないとたかをくくる者も多い。だが中国近現代史における戦争は満州事変を除いてすべて中国の先制攻撃で始められたことを忘れてはならないだろう。



posted by 右野翼 滅罪 at 10:03 | Comment(0) | 【日記】 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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